top of page

お化けなんてないさ

最初に言っておくが、僕は幽霊を信じていない。

幽霊なんて本当はいないだろうといつもどこかで思っている。

僕自身、”見える側”で、”無類のホラー好き”なのに、だ。

矛盾してません?と思うかもしれないが、そうなのだから仕方ない。

実は昔、知人に言われた事があるのだ。

「君が見えているのは幻覚で、どこか脳に障害があるから見えるんじゃない?」と。

障害と聞いて動揺する僕に再び知人は言った。

「障害は大袈裟だけど、おそらく、人間が本来発達するべきではない脳の部分が発達しているんじゃない?犬とか猫が発達している部分というか。だから普通の人には見えない幻覚が見えるんじゃない?」

なるほど。何かが腑に落ちた。

人間誰しも備わってるもので、僕はたまたまその部分だけ発達してしまったって事か。

だから、生まれつきじゃなくても、途中で見えるようになったりする人がいるわけか。

脳の異常発達だと思って以来、僕は幽霊の存在を信じなくなった。

ましてや、呪いなんてこの世に存在するわけがない。

人が呪いだと思うものは大体が思い込みで、その人自身が気持ちを悪い方へ悪い方へ持って行くから行動もそれに伴って、悪い方向へ行くだけなんだと思う。

テレビやYoutubeの心霊番組だって9割がヤラセだ。(自分自身見える側だからよく分かる)

最近は特にヤラセが多過ぎて、嫌になるほどだ。


ここまで言っているのに、僕は、ホラーが好きだ。

無類のJホラーオタクだ。(洋物はグロいから好きではない)

脳の異常だとしても、作り物ばかりだとしても。好きなものは好きなのだ。

だって、ごく稀に、説明のしようのない出来事も起こるから。


学生時代、こんな事があった。

友人の車で、夜のお台場まで数人でドライブに行った日の出来事。

友人はいわゆるパリピで、お台場には腐るほど行ったらしいが、僕や他の友人は1,2回しか行った事ないので連れてってもらったのだ。

平日の夜というのもあり、お台場への道は比較的空いていて、友人はあと10分くらいで着くと教えてくれた。

フジテレビも視界に入り、テンションが上がった僕らは、どこに行こうか相談し合っていた。

すると運転中の友人が「あれ?」と言った。

「どうしたの?」僕が尋ねると、友人は不思議そうに、

「ちょっと道間違えたかも」

お台場は腐るほど行ったって言ったくせに、と茶化したが、友人は不思議そうだった。

そして数分後、彼はまた言った。

「道間違えたかも…」

「え?どういう事?」

友人は少し困惑していた。

「いや、間違えたというか、間違えてないんだけど、着かないんだよ」

彼曰く、レインボーブリッジを通過すると間も無くフジテレビが右手前方に現れるはずなんだが、レインボーブリッジを通過して道沿いに行くと、また、左手に【通る前のレインボーブリッジとフジテレビ】が現れるのだそう。

何を訳の分からない事を言ってるのだと思ったが、確かに、ちゃんとは確認していないがレインボーブリッジを通った感覚はあった。

僕は友人に頼んで、もう一度レインボーブリッジを通ってもらった。今度はしっかり景色を見ながら。

「わかった」と小さく答える友人はどこか怯えていた。

嫌な予感がする中、僕らを乗せた車はレインボーブリッジを再び渡り始めた。

渡っている最中、車の中は少し緊張感が漂い、たまたま流れていたマドンナが恐ろしい曲に思えた。

ただ、窓の外は、街灯が無数に光ってとても綺麗だった。(今思えば、橋の下は川だから街灯が無数にあるはずがない)

数分後。こんなにレインボーブリッジって長かったっけ?と思い、ふと先にある橋の袂に目をやると、見慣れないものが目に入った。

レインボーブリッジの出口の両脇に巨大な灯台が2本そびえ立っているのだ。

え?と思った。だってこんな巨大な灯台、橋を渡る前から気づきそうなものを。今の今まで気づかなかったのだから。しかも2本。

「あんなのあったっけ?」友人に尋ねた。

「いや、前行った時はなかったと思う」

他の友人も同意見だった。普通は橋の袂に灯台なんて建てない。

ましてや、50m以上ある大きさの灯台を2本も。

僕は友人の顔をパッと見た。唇が尋常じゃないほど震えていた。その時初めて人の真っ青な顔を見た。

これは只事じゃない。そう思いながらも僕は友人に何も声を掛けなかった。

真っ青な顔で震える彼に、何て声を掛けたらいいのか分からなかった。

ただひたすらに、レインボーブリッジを無事に通過できる事を祈るしかなかった。

灯台の脇を通る時、僕は恐る恐る灯台を見上げてみた。

その灯台は、決して古臭くなく、むしろペンキ塗りたてのように真新しい物だった。まるで数日前に建ったような、人の匂いが全くしないものだった。それなのに、不穏で凶々しい雰囲気を漂わせていた。

その時、背後から誰かに見られているような気がした。

バッと振り返ってみたが、そこには誰も、幽霊すらも、いなかった。

そう、こんなにも不穏な空気が流れているのに、僕は、1mmも幽霊の気配を感じていなかったのだ。灯台を過ぎて、少し道沿いに行くと、やはり左手にレインボーブリッジとフジテレビが現れた。

友人は車を止め、しばらく沈黙が続いた。そして友人はこう言った。

「帰ろう」

友人は再び車を出した。

その時また、誰かに見られているような気がした。それでもやっぱり幽霊なんてどこにもいなかった。それ以降、僕はお台場には行っていない。


これが僕が唯一経験した全く意味不明な体験だ。

結局あれが何だったのかは分からない。もしも脳の異常だとしたら、僕以外も同時にその異常が起こったという事なんだろうか?もしも幽霊の仕業だったとしたら、幽霊の存在に全く気づかなかった僕の能力なんてまだまだだなぁと思う。

後々、運転していた友人は「何かの呪いだ」と言った。

いやいや、レインボーブリッジをぐるぐるさせるってどんな呪いだよ。そもそも幽霊だったかも分からないし、仮にそうだとして幽霊にどんなメリットがあるんだよって思ったけど、もしかしたら楽しそうな僕らを見ていたらむしゃくしゃしてそんな呪いをかけたのかもしれないし、暇つぶしに適当な呪いをかけたのかもしれない。結局、幽霊の考える事なんて誰にも分からない。

そして、分からないから余計に魅力を感じてしまうのかもしれない。

世の中まだまだ、未知なる出来事がたくさんある。


最初にも言ったが、僕は幽霊を信じていない。ましてや呪いなんてもっての外。

けど、ごく稀にこういった不可思議で説明のつかない出来事が起こるのも事実である。

そんな不可思議な出来事が起これば起こるほど想像を掻き立てられてしまう。

だからホラーオタクはやめられないし、心のどこかで幽霊はいるんだと思っている自分もいたりする。


栗原孝順

Comentarios


Your content has been submitted

Your content has been submitted

​オタヨリポスト
画像を選択

送信しました

​送信できませんでした

bottom of page